専門医による医療解説


アドバンス・ケア・プラニングをご存知ですか?

岡林孝弘

  • アドバンス・ケア・プランニングをご存知ですか?
  • アドバンス・ケア・プランニング(略してACP)ということばをご存知ですか?人生の最終段階での医療やケアについて、患者さん本人を主体に、そのご家族や医療・ケアチームがあらかじめ話し合い、本人の意思決定を支援していくプロセスのことです。
  • わが国は超高齢者社会となりつつあり、年々死亡者数が増加する多死社会となってきています。人生の終末期においてどのように過ごしたいか、どういう医療や介護を受けたいかという本人の意思を尊重して、尊厳ある生き方を実現することが望まれます。
  • これらを目的として、現在厚生労働省を中心に国を挙げてACPの普及・啓発を推進しています。そして、ACPという名称が一般には馴染みにくいために、愛称を「人生会議」と決定されました。やや堅苦しい名称ですが、要は「人生の終い方」についてあらかじめ関連する人たちと話をしていきましょうということです。筆者を含めて、わが国ではこのような話し合いは家族間でもそれほど行われているとはいえません。
  • わが国では、意思決定能力が低下した高齢者や認知症の患者さんが増加しており、そのような人たちが安心して生活できるように、終末期の医療に関する患者さんの希望をあらかじめ家族や医療者とともに話し合っておくことが望まれるのです。
  • ACPは欧米を中心に発展してきた活動であり、医療における患者の自己決定権を尊重する考えが普及してきました。将来あるいは終末期の本人の意思決定能力低下に備えて、事前指示書、「リビングウィル」という文書で本人があらかじめ意思表示を行い、それを尊重して医療や介護の対応を決定していくプロセスです。従って、病床についている状況だけではなく、健康な時でも家族の間で話し合いをすることが望まれます。また、心身の状態に応じて本人の意思も変化することがあるので、繰り返しの話し合いが大切です。
  • いろいろとやっかいな問題もあります。いつからが終末期なのか明確ではありません。近年の医学の発達により、これまで不治だった病気が回復することもありえます。
  • 慢性疾患の終末期
  • 人生の最期に至る経過は多様です(右図)。がん患者や臓器不全などの慢性疾患で亡くなる場合には、病状の推移が予測可能なことも多く、延命に偏った医療よりも症状緩和を優先させることが一般的となってきていますが、本人の事前意思表示がない場合は家族の意思が決め手となることと思われます。こういった状況では、患者さんに最善の対処と思っても、延命治療の不開始や中止を決めることは家族や医療者にとっても容易ではありません。高齢者認知症終末期における胃ろうや経鼻経管からの栄養補給についてもACPがない場合に、不開始や中止は判断しづらいものです。
  • 救急患者の終末期
  • 救急医療現場では、終末期を以下のように定義しています。⑴不可逆的な全脳機能不全。⑵生命が人工的生命維持装置(人工呼吸器など)に依存して複数臓器の不可逆的機能不全で、移植などの代替手段がない。⑶行われている治療法に追加するべきものがなく、現治療を継続しても近いうちに死亡すると予測される。⑷がん末期などの回復不可能な疾患の末期であることが判明。
  • これらのケースでは、多くは事前指示書などがないため、家族・関係者の理解と同意の上、現治療を維持するか減量するか、あるいは終了するか、例えば、人工呼吸器や血液透析をどうするか選択することとなります。終末期の患者が救急医療要請された場合、救急隊員は心肺蘇生を行うのが通常です。この点についていろいろと議論されています。ACPでこれを望まない場合には、かかりつけ医などに確認の上、心肺蘇生を行わないとの流れもあります。
  • 私たち医療従事者は一般的に生命の継続を尊重して医療行為を行ってきた歴史的経緯があります。本人の意思に反して無駄な医療が行われることもしばしばあります。ACPのプロセスを経て形成された本人の意思が明確であれば、尊重されるべきです。
  • ACP導入に向けて
  • 具体的にはどのようにすればよいでしょうか。いろいろな施設で多職種合同カンファレンスのような仕組みからACPが導入されてきています。広島県地域保健対策協議会が普及を目指して作成した手引きがあります(当院にもパンフレットを置いています)ので、参考にしてください。質問項目を設定して相談する方式を提示しています。
  • まず、自分の人生の目標や希望について考えてみましょう。何が大切でしょうか?次に自分の健康について学び、考えましょう。今の健康状態を理解できているか、担当医から健康状態や病気の見通しについて詳しく説明を受けたいですか?現在お持ちの病気やもし病気になった時に受ける治療について希望がありますか?例えば、どのような状態であっても一日でも長く生きられるような治療を受けたい。あるいは、自分の望む生活ができることを目指して苦痛を和らげるための十分な処置や治療を受けたい。病気が治ることを目指した治療を受けますが、良くならなかったり、生活の質が保たれなかったりした場合には、できるだけ自然な形で最期を迎えられるような治療を受けたい。病気の治る見込みがなく、もしもの時が近くなった時に延命につながる蘇生術や集中治療を含む延命治療を希望しない。などです。最期の時が近づいた時、どこで療養したいですか?
  • また、将来脳の障害や認知症になったりして自分で判断できなくなることもあり得ます。そういった場合の希望も考えてみましょう。そして、代わりに意思決定できる方や伝えてくれる人(代理人)はいますか?
  • あまり考えたくない内容でもありますが、多くの人に訪れる懸案です。
    「私の心づもり」として記録しておくことをお勧めます。