専門医による医療解説


受動喫煙防止の話

 岡林孝弘

  • 2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけて受動喫煙防止が話題となっています。受動喫煙防止を目指した法律の制定に向けての議論がありますが、受動喫煙とは何でしょうか?オリンピックと喫煙とはどういう関係があるのでしょうか?
  • そもそも、スポーツの祭典であるオリンピック大会は健康の祭典でもあるという考えがあり、IOC(国際オリンピック委員会)はWHO(世界保健機関)とともに「たばこのないオリンピック大会」を提唱しています。そして、2002年のソルトレークシティ大会以降は開催地での受動喫煙禁止や会場での全面禁煙などが法的にも整備されたりしてきています。次回の東京オリンピックまでに国内の法律を整備して、国際社会との調和を図ろうとしていますが、その内容に関してはまだまだ不十分なものとの指摘もあります。
  • わが国では、明治以降たばこ産業は公営でした。1985年に施行された「たばこ事業法」で民営化されましたが、筆頭株主は財務省です。たばこ事業は財源であり、たばこは嗜好品として扱われています。国策として喫煙による健康被害をなくする取り組みは国際的に見劣りします。
  • それでも、年々成人の喫煙者の割合は減少してきており、成人男性の喫煙率は約30%強、女性では10%以下、総数で20%以下となってきています。人々の健康志向とたばこの害が徐々に周知されてきていることの表れでしょう。
  • たばこを吸っている人の健康被害については、呼吸器系のがんだけではなく、いろいろな発がん率があがることが知られています。がん以外にも気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病、骨粗鬆症、肌の老化などに関連しているといわれています。また、妊娠中の喫煙は胎児への悪影響があり、将来のことを考えたら若い女性の喫煙は中高年の方よりも深刻な問題です。
  • 受動喫煙とは、喫煙により生じるたばこの先から出る煙(これを副流煙といいます)や、喫煙者が吐き出した煙(これを呼出煙といいます)を発生源とする、有害物質を含む環境たばこ煙に曝露され、それを吸入することを示します。間接喫煙、二次喫煙ともいいます。夫の喫煙により、たばこを吸わない妻の受動喫煙が原因で肺がんを発症するなどということが起こりうるのです。
  • 厚生労働省の研究班によると、受動喫煙が原因で年間1万5千人が亡くなっていると推計されています。2003年に健康増進法が制定され、受動喫煙防止が努力義務とされていますが、飲食店や職場でのさらには家庭内での受動喫煙防止に向けて実効性ある対策が求められています。たばこの害を減らす健康増進のために、受動喫煙対策は重要でありますが、本丸は喫煙自体をなくする取り組みと思われます。
  • 最近、電子たばこや加熱式たばこといわれる新型たばこが急速に普及してきています。電子たばこは香りのついた液体を熱して煙ではなく蒸気を吸うもので、加熱式たばこはたばこ葉を燃やさないで加熱してエアロゾルを吸引するものです。反たばこ意識が高まっている状況で、煙を出さないことや新しいネーミングなどのイメージ戦略で新たな顧客を獲得しようと販売会社もしのぎを削っています。販売側は通常の紙巻たばこより安全で害がないと宣伝しますが、有害物質は含まれており、まだまだ安全と言えるだけの検証はされていません。このため、受動喫煙防止を目指す健康増進法改正案では、これら新型たばこも公共の場所では同様に規制対象となることが予想されています。
  • いずれにしても、喫煙行動の本質はニコチン依存であり、新型たばこもその点ではニコチンに脳が支配されている状態の継続であることに変わりはありません。
  • (参考)禁煙シンボルマーク
    寄り添う2羽の白鳥は、喫煙者とまわりの禁煙協力者がともに禁煙に取り組む姿。「禁煙しない、吸わん(スワン)」毎月22日は禁煙の日、スワンスワンで禁煙を!