口腔ケア(周術期口腔機能管理)
井上病院 副院長 高橋正彦
- はじめに
近年、口腔ケア(口の中を健康に保つこと)が肺炎などの病気の予防に重要であることが注目されてきました。「口は災いのもと」と言われますが、「口は万病のもと」とも言えます。 - 全身麻酔下手術では口腔ケアをした場合はしなかった場合と比較して術後呼吸器合併症の発生率軽減や術後在院日数短縮につながることが証明され、2012年度の診療報酬に「周術期口腔機能管理料」が新設されました。当院では2014年より福山市歯科医師会の協力のもとに周術期口腔機能管理を行っています。
- 口腔機能管理(口腔ケア)
口腔機能管理(口腔ケア)とは具体的には、歯磨き、虫歯や歯周病の治療、歯石の除去、義歯の調整などを行い、口腔内を健康な状態に保つことです。 - 周術期口腔機能管理の流れ
手術が決定した外来診察時点で周術期口腔機能管理の説明を行い、かかりつけ、もしくは最寄りの歯科を選び、周術期口腔機能管理依頼書を当院よりFAXを送ります。 - 患者さまは入院までに歯科を受診し、術前の口腔機能管理を行います。当院入院時までに歯科医療機関より周術期口腔機能管理計画書及び周術期口腔機能管理報告書が届きます。
- 入院時、当院看護師により、歯石沈着・舌苔・口腔乾燥・歯肉出血・重度齲歯・動揺歯の有無などの観察(アセスメント)を行い、それをもとにブラッシング指導やチェック・口腔内粘膜清掃や保湿などの処置を行います。退院時には歯科医療機関に報告書が送付され、退院後も継続的に口腔機能管理が行われます(図1)。
- 術前歯科治療内容
周術期口腔機能管理を行った75例の、術前歯科で施行した治療内容は、虫歯20例(26.7%)、歯周病41例(54.7%)、義歯の調整10例(13.3%)などでした。8例(10.7%)において術前に処置が完了しなかったが、義歯の新設や調整など、緊急性がなく、退院後に追加処置を行いました。 - 術後呼吸器合併症の比較
周術期口腔機能管理を行った症例(A群)の呼吸器合併症は75例中5例(6.7%)であり、その内訳は無気肺4例、肺炎1例であり、重症例はなかった。周術期口腔機能管理が開始前(B群)では123例中13例(11.4%)であり、その内訳は無気肺9例、肺炎3例、誤嚥性肺炎1例であり、誤嚥性肺炎の1例は重症であった。A群とB群の間で呼吸器合併症発生率に有意差がありました(図2)。
- 術後在院日数の比較
肺癌に対する肺部分切除、肺葉切除術においてA群はB群に対して在院日数短縮傾向がみられました(図3)。
- おわりに
口腔ケアは周術期に限ったことではなく、常日頃から行うことが健康管理に有効です。「口は万病のもと」です。長く歯科受診されてない方や、口の中に異常や違和感のある方は一度歯科を受診されることをお勧めします。