専門医による医療解説


肺非結核性抗酸菌症について

井上病院 副院長 高橋正彦

  • はじめに
    肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)は諸外国に比較して本邦に多く、また近年増加傾向にあります。疾患名の中に「結核」という言葉が含まれていますが、結核と肺NTM症は全く別の疾患です。(下表)





  • 非 結 核 性 抗 酸 菌 と は
    抗酸菌の中で、「結核菌」と「らい菌」を除いた菌を「非結核性抗酸菌(NTM:nontuberculous mycobacteria)」と呼びます(表2)。

    NTMは現在180種類以上の菌種が確認されていますが、人に感染して問題になるのは ①M.avium ②M.intracellulare,③M.kansasi ④M.abscessus complexの4種類で大部分を占めます。①と②を合わせてMAC(マック)(M. avium complex)と呼んでいます。
  • NTMは肺への感染がほとんどで、肺以外の感染はまれです。NTMの肺感染を肺NTM症と呼びます。またMACの肺感染を肺MAC症と呼びます。

    NTMは土の中や水の中のいたるところで生息し、我々は常にNTMにさらされていますが、ほとんど感染することはありません。感染については解明されていない点も多いのが現状です。人から人への感染は無視できます。


  • 肺 NTM 症 の 症 状
    肺NTM症の場合は初期には無症状であることが多く、進行すると慢性の咳、痰、血痰・喀血、体重減少、倦怠感、呼吸困難などの症状が徐々に現れます。高熱がでることはまれです。

  • 肺 NTM 症 の 診 断
    胸部X線写真や胸部CTにて肺NTM症に特徴的な所見が見られ、痰や気管支洗浄液などから菌を検出されれば確定診断となります。ただし、菌が検出されないこともあり、画像所見のみで診断されることも少なくないのが現状です。また、菌が検出された場合でも、混入や単なる定着であり感染ではない場合もあります。

  • 肺 NTM症 の 治 療
    肺NTM症では無症状のときは治療は行いませんが、治療開始のタイミングを逸しないために、定期的に画像検査や喀痰検査などで経過観察することが必要です。治療が必要となるのは、症状が出現した場合、急速に進行する場合、重症化の恐れがある場合などです。

    治療は抗結核薬3~4剤を、1~2年以上続けます。菌が検出されなくなっても1年以上継続します。しかし完治することはほとんどなく、再発や再燃を繰り返します。そのため治療完了後も定期的な経過観察が必要です。必要に応じて鎮咳剤(=咳止め)・去痰剤(=痰切り)・止血剤を適宜併用します。また、一定の条件を満たせば摘出手術を行うことがありますが、手術適応となることは比較的まれです。

  • 予 後
    一部の菌種を除いて肺NTM症は進行が非常に緩徐で、無症状のことが多く、致命的になることはまれですが、一旦感染すると完治は困難です。まれに急速に進行することや重症化することもあります。

  • 最 後 に 
    肺NTM症の増加の原因は高齢化社会の進行や診断技術の向上などが考えられます。本邦に多い理由は解っていません。肺NTM症の発症のメカニズムは解っていませんが、体力・免疫力低下が原因の一つと考えられています。肺NTM症に限ったことではありませんが、予防には免疫力や体力が低下しないように体調管理には十分気を付けるようにしましょう。