専門医による医療解説


新型コロナと禁煙

井上病院 診療部長 西川敏雄

  • 新型コロナに関する話題を目にする日々が毎日のように続いています。少し前のことではありますが、3月には子供の頃かじりつくようにしてみていたテレビの中のお笑いの人が新型コロナによる肺炎で亡くなりました。テレビの中の人ではありますが非常に親近感を持っていた人が亡くなったことにかなりの衝撃を受けたことをとてもよく覚えています。彼は仕事以外の時などにタバコを吸っている姿がテレビに映っていることも多かったように思います。
  • 新型コロナと喫煙に関しては多くの報告があります。武漢での新型コロナ肺炎患者78例のうち入院2週間後に状態が悪化したのは11例(14.1%)、悪化群では改善・安定群に比べ喫煙率が有意に高いという結果でした(27.3% vs. 3.0%, χ2 = 9.291, P = 0.018)。悪化要因に関する多変量解析では喫煙が最大のオッズ比でありました。喫煙歴はコロナ肺炎の最大の悪化因子ということになります(Liu W et al. Chinese Medical Journal 2020;133(9))。
  • また、新型コロナに罹患した場合、若年者よりも高齢者での重症化や致死率の高さをニュースや新聞で見聞きすることが多いと思います。新型コロナに罹患し入院加療を行った8910人の解析、この解析はもともとは新型コロナと心血管疾患、そしてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬等に関するものでありますが、新型コロナによる65歳以上の高齢者の死亡リスク(1.93倍)と喫煙者の死亡リスク(1.79倍)はほぼ同等であり、喫煙者の死亡リスクは高齢者に匹敵するということを示しています(Mandeep R. Mehra et al.N Engl J Med 2020; 382:e102)。
  • 日常診療において紙巻きタバコから電子タバコに変えました、と言われる方がおられたりしますが、アメリカで2020年5月に13才から24才までの4351名を対象として実施されたオンライン調査では、新型コロナ感染と診断された者は、電子タバコだけの使用者(現在および過去)で 5倍(95%信頼区間:1.82–13.96)、紙巻きタバコと電子タバコの両方使用者(現在および過去)で7倍(95%CI: 1.98–24.55)、過去30日の両方使用者で6.8倍(95% CI: 5.43–15.47)という結果であり、電子タバコを使用する若年者は新型コロナに感染しやすいとされています(Shivani Mathur Gaiha et al. Journalof Adolescent Health 67 519-523)。
  • つまり、喫煙は若年者においても、そして紙巻きタバコか電子タバコかを問わず、新型コロナに関してはよくないということになります。
  • また、「3密」というフレーズは我々にとって非常になじみのあるものになった感がありますが、喫煙所はまさにこれに相当するように思われます。新型コロナに関して、喫煙はそれ自体、そしてその環境も含めて明らかによくないということです。
  • 先述のように喫煙者は新型コロナによる重症化リスクが高いということですが、これは逆にいうと禁煙することで重症化予防が可能になるということです。また、受動喫煙も免疫機能の低下や呼吸器感染症を引き起こすことが知られており、これを防ぐことは新型コロナ罹患対策につながります。
  • 今が禁煙を行う、そしてすすめてゆくよい機会のように思います。これまで日々の生活において喫煙、禁煙といったことを意識している人はそう多くはなかったと思いますが、現在喫煙と大いに関係のある“新型コロナ”を意識しない日はないと思います。新型コロナ、そしてそれと密接に関係する喫煙、禁煙の問題が私たちの非常に身近にあるということです。新型コロナの感染対策を徹底、啓発する目的で「身近な人を守るために」といったフレーズもどこかで聞いたような気がしますが、“身近な人を新型コロナから守るためには喫煙者が禁煙することが必要である”、こういった意識が喫煙者、非喫煙者を問わず皆に拡がってゆけば禁煙は大いに進んでゆくのではと思います。
  • また、新型コロナに罹患した人に対する誹謗中傷が多くあるということを耳にします。誹謗中傷を行うことはよいことではないと思いますが、誹謗中傷が自分の意に反して罹患した新型コロナ患者に向かうのではなく、人を傷つけない程度に少しだけソフトな形になったうえで喫煙者に対して向かっていくのであれば誹謗中傷も少しは世の中の役に立つのではと思います。
  • 日本人は良い意味で素直な性格のように思います。強制力のない「要請」だけで新型コロナ感染者の増加を抑え込んだ国はなかったように思います。禁煙も強制力を伴う法律等の措置などなくともこの「要請」だけでできる可能性は十分にある、そのことを示したのが今回の新型コロナ感染症であると思います。
  • 新型コロナとの戦いはしばらくは続きそうです。本当に早く終わってほしいと毎日のように思いますが、腰を据えて向かい合い、そして新たなよい方向へと向かってゆくエネルギーを生み出すことにつながってゆけばと思います。

  • ふくやま医師会広報 NO.234
    禁煙支援コーナー 2020年10月より改変