専門医による医療解説


せん妄について

井上病院 診療部長 西川敏雄

  • 〈 せん妄とは 〉
    せん妄は治療を受けられておられる患者さんに出現したりする精神症状のひとつです。興奮して暴れたり、点滴のチューブを抜いてしまったり、幻覚がみえたりといった感情、行動、認知機能に症状が現れます。

    せん妄は「急性の脳機能不全」と定義されます。なんらかの原因によって、脳の機能が低下した状態を意味します。

    脳が正常な状態であれば注意力が保たれ、いろいろな刺激を正しく認識し、どのように対応すればよいかきちんと結論を出して行動ができます。また、感情面でも喜怒哀楽をきちんと表現できます。

    せん妄は「脳の機能が低下」しているのでこれらのことができなくなるのです。

  • 〈 せ ん 妄 の 原 因 〉
    せん妄の発症には、せん妄になりやすい因子(準備因子)、促進させる因子(促進因子)、直接原因となる因子(直接因子)が関わります。準備因子を持つ人はせん妄になりやすく、また促進因子を持つ人はせん妄が発症した場合、それが長引くことになります。

    準備因子としては、高齢であることやアルコール依存の既往などがあげられます。

    促進因子としては慣れない環境や疼痛、視覚・聴覚の低下などがあげられます。

    直接因子として皆さんの身近にあるものとしては薬剤(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、オピオイドなど)があげられます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬はやめようとすると離脱症状を起こしたり、また疾患によってはやめることが体の状態を不安定にすることもあったりしますが、なるべくなら中止した方がよい薬剤です。また、オピオイドは鎮痛目的などに用いる麻薬などのことですが、これもせん妄の直接因子にあげられます。

  • 〈 せ ん 妄 の 治 療 〉
    準備因子、促進因子、直接因子には上にあげたものに加えまだまだ多くのものがありますが、
    治療は原因となっている因子を取り除くことが第一となります。

    必要な場合には薬物療法を行うことになります。せん妄の多くは一過性、一時的なものであり改善することが多いのですが、生命に関わるような因子が背景にある場合もあり注意が必要です。

    せん妄は興奮したり暴れたりといった活動性の多いものから少ないものまでありますが、特に活動性の少ないものは気が付かないことも多いとされています。また、80歳以上であることや視力障害、認知症の存在といったこともせん妄を見落とす因子とされています。


  • われわれ医療従事者も患者さんのせん妄には注意をしていますが、気が付かないことが多い病態であり、患者さんに普段から接しておられるご家族の協力が必要な場合もあります。

    あれっ、入院前はこんな感じではなかったのに・・・など気になることがあれば、われわれに声をかけてください。