帯状疱疹について(前編+後編)
井上病院 皮膚科部長 久山陽子医師

- 〈 帯状疱疹とは?〉
- 皮ふと神経に症状が出る病気です。神経痛のような痛みが4~5日続いたあと、赤いぶつぶつや水ぶくれが出ます。
赤い湿疹はその部位に集まったように出たり、神経に沿ったように帯状に出たりします。痛みだけの時は帯状疱疹とは分からず、発疹が出て帯状疱疹と分かります。
「腰痛で湿布を貼ったら、その湿布でかぶれた」と思って受診すると実際は帯状疱疹で、腰痛も帯状疱疹の痛みだったという場合もあります。間違っていても構いませんので、早めに皮ふ科医や内科医に相談しましょう。
発疹はゆっくりかさぶたになり、発疹の赤色は茶色っぽく変化していきます。そしてかさぶたは乾燥して取れていきます。かさぶたが取れるまで、だいたい数週間かかります。
厄介なのは、発疹が消えた後も続く神経痛です。「 帯状疱疹後神経痛 」といいます。発疹が落ち着いてくるとともに痛みもなくなる人もいますが、発疹がなくなっても数週間から、長ければ数年も痛みが続く場合があります。発疹が治っても神経の損傷が残った状態のため、痛みが続くのです。高齢の人ほど神経痛が残りやすい傾向にあります。
帯状疱疹は通常、左右どちらかの片側に症状が出ます。全身どこにでも出ますが、体や顔に出ることが多く、半数以上が上半身に出ます。目の周りに出た場合は結膜炎や角膜炎を合併することもあるため、眼科を受診するようにしましょう。
- 〈 帯状疱疹の原因は何ですか? 〉
原因は水痘・帯状疱疹ウイルスです。このウイルスに初めて感染すると、水ぼうそうになります。多くの人は子どもの頃に水ぼうそうにかかります。水ぼうそうの後、何も症状はありませんが、ウイルスは体の中の神経節にひそんでいて、完全に消えることはありません。
高齢になって体が疲れていたり、何か負担になることがあったりした際に、ひそんでいたウイルスが再活性化して帯状疱疹になるのです。
- 〈 帯状疱疹になりやすいのは、どんな人ですか? 〉
- 帯状疱疹は年を取るとなりやすく、疲れたときや無理をした際になりやすい病気です。
50~70代に多く見られますが、若い人でもかかる場合があります。抗がん剤や免疫を調整する薬を使用している人、新型コロナワクチンを接種した人が発症することもあります。
「帯状疱疹は夏に多い」というイメージを持つ人が多いのですが、年間を通してかかる病気です。
- <帯状疱疹の治療法は?>
- 抗ヘルペスウイルス薬を使用します。これは、ウイルスの増加を抑え、発疹や痛みを和らげて、治るまでの期間を短くする薬です。そのため、帯状疱疹と分かったら早めに内服すると効果的です。「帯状疱疹かもしれない」と思ったら、早めに受診してください。
痛みに対しては鎮痛剤、炎症を抑える薬、神経障害に対する薬などを使用します。帯状疱疹は疲れやストレスが原因となって、免疫力が低下した際に出る病気です。十分な睡眠や栄養をとって、ゆっくり休むことが治療になります。病変部を冷やすと、痛みがひどくなりやすいとされています。冬は寒い場所で過ごさないように、夏でもクーラーなどで冷やさないように注意してください。入浴については、疲れていれば無理に入らなくても構いませんが、入りたい場合はぜひ湯船に浸かって体を温めてください。血行が良くなると痛みが和らぎます。
温める目的でおなかに腹巻きをしたり、頭なら帽子をかぶったりするのもオススメです。また服を1枚増やしたり、ストールやマフラーを活用したり、低温やけどに注意しながら衣類の上からカイロで温めるのもいいでしょう。
- <帯状疱疹のワクチンについて>
- 50歳以上で帯状疱疹になる人が多いため、50歳を過ぎたら帯状疱疹ワクチンの接種をおすすめしています。水ぼうそうにかかったことがある人や、小さい頃に水ぼうそうの予防接種をしたことがある人は、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を獲得していますが、年齢とともに弱まってしまうため、あらためてワクチン接種で帯状疱疹を予防しましょう。
帯状疱疹のワクチンには「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。
生ワクチンは1回の皮下注射で、料金は8000円程度です。発症予防は約50~70%、帯状疱疹後の神経痛は67%軽減、効果の持続は5年くらいです。
不活化ワクチンは2回の筋肉注射で、2カ月空けて接種します。料金は1回あたり2万2000円前後です。発症予防は約90~97%、帯状疱疹後の神経痛は86~100%軽減、効果の持続は少なくとも10年とされています。
生ワクチンは弱らせた病原体を接種するため、免疫が低下した人が接種すると、その病気を発症することがあり禁忌です。ステロイドや免疫抑制剤など免疫を調整する薬を使用している人や妊婦さんなどは、接種できません。不活化ワクチンは病原体に似た物質を使用するため、接種してもその病気になることはありません。
予防接種を検討している人は、内科医や皮膚科医に相談してください。
- <実際の診療のなかで思うこと・・・>
- 帯状疱疹ワクチンが65歳対象に4月から定期接種を始める方針が決まりました。
また、帯状疱疹ワクチン接種費用の一部を国が助成するようになります。詳しくは厚生労働省や各自治体からの正式な発表を待ちたいと思います。
皮膚科専門医として、帯状疱疹の患者さんの診療や治療にあたることが多々あります。
帯状疱疹後神経痛のひどい方はさまざまな薬を使用しても効果が乏しく、つらい痛みが長く続く場合があります。痛みがひどいことで日常の様々なことにしんどさ・つらさを感じ、日常生活に支障を及ぼすこともあります。また、つらい痛みが続くことで患者さんの中には何かを楽しむということができにくくなり、気分が落ち込む方もおられます。患者さんが
「ワクチンを接種しておけば良かった」と言われていたこともありました。
そのような様子を目の当たりにし、帯状疱疹という病気のつらさを実感するとともに
帯状疱疹ワクチンの接種されていない方が多くおられるということも実感しています。
帯状疱疹に限らず、生活習慣病をはじめ様々な病気について、治療だけではなく
予防にも注力することが重要だと様々な場面で言われています。
健康維持のために帯状疱疹ワクチン接種をおすすめします。 - また、皮膚について不安なこと等がありましたら、当院皮膚科をお役立てください。
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上記は井上病院皮膚科の広報誌「ひふのたね」第2号-第3号からの転載です。