専門医による医療解説


悪性胸膜中皮腫について

回答:井上病院 副院長 高橋正彦

  • はじめに:
    悪性胸膜中皮腫は胸膜中皮から発生する悪性腫瘍です。原因のほとんどがアスベスト(=石綿)の吸入です。アスベスト吸入から約40年という長い潜伏期を経て発生すると言われています。現在は稀な腫瘍ですが、今後増加してくると言われています。発生に地域差があり、中国地方は発生頻度が高くなっています。

  • アスベスト:
    アスベストは天然の鉱物で非常に細い繊維状の構造で、断熱性・耐火性・絶縁性などに優れており、それで安価であるため奇跡の鉱物と呼ばれていました。

    アスベストは現在使用禁止になっていますが、建築材料として建物に使用されたり(図1)、電気製品や自動車や船舶などに幅広く使用されてきました(図2)。アスベストを使用された建物は現在もなお数百万棟もあると言われています。
  • 胸膜:
    胸膜は肺や横隔膜や心膜を覆っている薄い膜で、肺側(臓側胸膜)と胸壁側(壁側胸膜)の2枚あります。この2枚の膜は、肺の血管や気管支が出入りする部位(肺門部)で連続しています(図3)。
  • 症状:
    症状は胸水貯留による呼吸困難、腫瘍が胸壁に浸潤することによる胸背部痛などですが、他の悪性腫瘍と同様に初期には症状は出ません。

  • 組織型:
    胸膜中皮腫の組織型は3種類あり、上皮型と肉腫型とその両者が混在した二層型があります。悪性度は肉腫型が一番高く、上皮型が一番低く、二層型はその中間です。組織型により治療方針は異なります(表1)。

  • 診断:
    胸部レントゲンや胸部CT検査で胸膜に腫瘍が疑われたら、その一部を採取して顕微鏡検査(=生検)を行います。悪性胸膜中皮腫と診断されたら、PET/CTなどで進行度(=病期)を調べます。


  • 治療:
    治療は ①手術療法 ②薬物療法 ③放射線照射などです。患者さまの背景、腫瘍の組織型、病期などにより最善の治療を選択します。
  • ①手術療法は一側の肺と胸膜を全て切除する胸膜外肺全摘術と肺を残し胸膜を剥ぎ取る胸膜切除剥皮術があります(表2)。
  • ②薬物療法は、免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ+ヤーボイ)が第一選択です。抗癌剤(シスプラチン+アリムタなど)が第二選択です(表3)。
  • ③放射線照射は胸膜外肺全摘術後に全胸郭に術後照射を行ったり、疼痛緩和のために局所照射を行ったりします(表4)。

  • 予後:
    予後は悪く、治療をしないまたはできない場合では余命は約1年です。近年は治療法の進歩により長期生存も増えてきました。

  • 保障・救済:
    悪性胸膜中皮腫の多くはアスベストの職業暴露であり労災保険の適応になります。職業暴露ではない環境暴露の場合は、アスベスト救済法による救済が受けられます。

  • おわりに:
    アスベストを扱う職業での職業暴露以外に環境暴露もあり、全ての人に悪性胸膜中皮腫は発生する可能性があります。悪性胸膜中皮腫は今後益々増加すると言われています。