専門医による医療解説


人生100年時代、健康寿命を延ばそう

井上病院 理事長 井上文之

  • ロータリークラブについてご存知でしょうか?ロータリークラブとは、人道的な奉仕を行い、あらゆる職業において高度の道徳的基準を守ることを奨励し、かつ世界における親善と平和に寄与することを目指した事業及び専門職務に携わる人が世界的に結び合った団体です。2023年4月には社会奉仕活動や福山美化のために芦田川の清掃活動も行いました。
  • また、私は国際ロータリー第2710地区のがん予防推進委員を務めており、3月24日には「人生100年時代、健康寿命を延ばそう」というテーマで講演を行いました。今回はその内容の一部をお伝えします。

  • ■健康寿命
  • 健康寿命とは、健康上の問題がなく、日常生活が送れる期間のことです。この健康寿命と平均寿命の差が【日常生活に制限がある、介護を受けなければいけない期間】となります。2016年のデータ(図1)では健康寿命と平均寿命との差は男性8.84歳、女性12.35歳となっています。そして、健康寿命と平均寿命の差が長ければ長いほど、病院に通院することも増え、
    薬などの医療費や介護にかかる費用も増えていきます。
  • かつてハーバード大学の栄養学が専門のジョン・マイヤー教授が発表したものに、「亭主を早死にさせる10か条(原題:Ten Quick Ways to Kill Your Husband)」というものがあります。幅広い年代の方に栄養学・健康の知識について啓蒙するためのキャンペーンのひとつとして1974年に提唱されました。
  • ■生活習慣病について~食塩の観点から~
  • 厚生労働省による2021年の主な死因の構成割合を抜粋しております(図2)。悪性新生物いわゆる がん が多くの割合を占めています。がんの一つである胃がんは食塩と深い関わりがあります。食塩を摂りすぎると胃の中で塩分の濃度がこくなり、ダメージを受けて炎症を起こし胃がんとなってしまいます。
  • ナトリウムは食塩の成分にあたります。人は塩分の高い食品をとると、このナトリウム濃度が高くなり、体は水分を貯め込もうとするために血液量が増えます。多くの血液を流すために血管の壁に高い圧力がかかり、高血圧になります。
  • ■高血圧について
  • 高血圧には二種類あり、疾患による二次性高血圧と、食事・飲酒や運動といった普段の生活や遺伝に関係したものを本態性高血圧に分けられます。基準値としては、つぎの一定の数値【収縮期血圧(最高血圧):130mmHg未満、拡張期血圧(最低血圧):85mmHg未満】を超えると診断されます。今回は食生活に関わりのある、本態性高血圧に焦点をおきます。
  • 高血圧の予防法として食塩の摂取量を減らすことが早い解決方法といえます。食塩の目標量は、男性7.5g未満、女性では6.5g未満と発表されていますが、高血圧を予防するためには6g未満とされています。ちなみに、当院での入院中の食事は1日トータル7g前後の食塩量、高血圧の方の食事は6g以下に設定しています。
  • では、実際に日本人がとっている食塩の量はどのくらいでしょうか。小さじスプーンでも考えてみましょう。日本人の1日あたりの食塩摂取量は、男性だと小さじ1と2/3量(10.9g)、女性では小さじ1と1/2量(9.3g)です。実際の食塩の量とグラムで表した数字では印象が大きく違うことがわかると思います。食塩小さじ1杯は6g程度のため、食塩摂取量は小さじ1杯未満が理想と言えます。
  • 塩分食生活をチェックするものとして、国立循環器病研究センターの「かるしおチェック」表があります。1つでも当てはまると塩分の摂りすぎにつながる食習慣があるということになります。みなさんもチェックしてみてください。
  • ■減塩の工夫のおススメ
  • ① 塩分の多い食品や調味料の、梅干し、塩蔵品(ちくわ、ウインナー)、食パン、バター(無塩、有塩)などに注意する。

    ② インスタントラーメンなど麺類の汁は飲まずに残す。例えばかけうどんは塩分5.0gであるため、かけうどんを1杯で男性の1日にとれる塩分量の3分の2をとってしまいます。

    ③ 鮭やさばなどの魚は塩が含まれているものではなく、減塩あるいは無塩のものを選ぶ

    ④ サラダや野菜をとることもマヨネーズやドレッシングによって台無しになることがあるため、減塩タイプのドレッシングにする またはかける量に気をつける

    ⑤ 昆布やかつお節でだしを取る。(化学調味料の粉末だしにも塩分が多く含まれているため)

    ⑥ 味噌汁は具沢山にすることで器に入る汁を少なくする。

    ⑦ 調味料や食材を使い、薄味でも風味がきいた満足のある食事にする。(例:焼き魚や肉にはレモンをしぼる、和え物にわさびや辛子を混ぜる、しょうがやにんにくなどの香味野菜を使うなど)

    ⑧ 減塩調味料(減塩と書かれた味噌やしょうゆ)などを活用する。


  • ■減塩とカリウムを含む食品
  • 単に塩分を減らすだけではなくて、カリウムの多く含まれる食品をとることもおすすめです。塩分の高い食品をとると、血液中にナトリウム(塩の成分)がいっぱいになります。その濃さを薄めようと水を取り込み体液が増えると、血管が圧迫され血圧が上がります。
  • カリウムはナトリウムを尿へたくさん出す作用があり、その結果ナトリウムの濃度は下がり血圧も下がります。カリウムが多い食品はかぼちゃ、ほうれんそう、ブロッコリー、トマト、大豆、切干大根、わかめ、ひじき、キウイ、バナナなどです。
  • ■さいごに
  • 人生100年時代、車に例えると名車は100年経っても動きます。しかし、管理も整備もせずに
    使っていると、早くにガタがきます。皆さまの体もメンテナンスをして健康的に過ごしていただけたらと思います。