専門医による医療解説


肺がんで死なないために・・・

井上病院 理事長 井上文之

  • 従来、日本においては胃がんの死亡率が高かったのですが、ヘリコバクタ・ピロリ菌が発見され、胃の検診がすすみ、徐々に低下してきつつあります。近年、日本において肺がんの死亡率が上昇し、男性における年齢調整死亡率では、1993年より胃がんを抜いて肺がんがトップになっています。
  • 肺がんで死なないためには、予防と早期発見が大切です。
  • ある患者さんは、毎年きちんと検診を受けていましたが、タバコを吸っていました。ある年、検診で早期肺がんが見つかり、主治医に、「私は毎年きちんと検診を受けているのにどうして肺がんになったのだ。」と聞きました。これはまちがいで、検診は早期発見をするためのもので、発がんの予防にはなりません。予防にはタバコを止める方が、はるかに効果があるでしょう。
  • この患者さんは毎年検診を受けていたので、肺がんにはなりましたが、早期発見することができ、手術をし、現在術後10年を過ぎましたが健在であります。
  • 次に大切なことは、死亡率と羅患率(病気にかかる率)との差です。つまり実際の患者さんの数は、未だに胃がんがトップであり、死亡率は肺がんがトップ。これは、胃がんにかかる患者さんは肺がんよりも多いのですが、肺がんに比べ胃がんの患者さんは「治っている」ということです。つまり治癒率が高いから死亡する患者さんが少ないのです。
  • しかし、肺がんの場合は、胃がんほど治癒率が高くありません。これは肺がんが、病気としての自覚症状が乏しく早く転移しやすいからです。私たちの体内の血液のほとんどは肺を通ります。肺を通って酸素を取り込み、炭酸ガスを放出しているのです。ですから、肺は大変血流が良く、肺にできたがんはすぐに血流に乗ってがん細胞が全身に広がりやすく、ほかのがんに比べて進行が早くなってしまうのです。
  • また、肺は人間が生きていくうえで非常に大切な呼吸を担当しています。肺は少なくなれば、呼吸が苦しくなり、切除もあまり多くは取ることが出来ません。つまりがんが進行すると手術で取り除きにくくなります。
  • しかし、肺がんも近年、手術手技、化学療法の飛躍的な向上により、治癒率が高まってきています。早期であれば9割以上の方が治癒しています。
  • 肺がんには腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん・小細胞がんと4つのタイプがあります。
  • 前3つのタイプ(腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん)はがんの性格が小細胞がんとは大きく異なり、非小細胞肺がんと一括して呼んでいます。非小細胞肺がんは、手術可能ならば手術がベストな治療法で、進行していたり、他に病気があったり、高齢であったりして手術ができない時は、化学療法・放射線療法の適応となります。近年制がん剤や分子標的治療薬等よく効く薬が多数使用できるようになっています。
  • 小細胞肺がんは診断された時にはすでにリンパ節等に転移していることが多く、手術になることは稀で、初めから化学療法・放射線療法となります。
  • もし、まだタバコを吸っている人がいましたら、早めにタバコを止めて、肺がん・肺気腫にならないようにしましょう。当院の禁煙外来では、禁煙補助薬を使った禁煙指導もしています。